ながいではたらく

農業を目指す人。老舗の会社を守る人。行政で働く人。ITを駆使する人。起業する人。長井で働く人たちには、いろんな人がいます。そしてそれぞれ、輝いています。

長井には水がある。ホップがある。
長井ならではのクラフトビールができる。

「ブルワリー」と言うのだから、ビールをつくるのである。しかしながらそれは、単なる「飲料」という枠組みには収まらないようである。言ってみれば、長井ブルワリークラフトマンがつくるビールは、さながら「アート作品」。それと言うのも、長井ブルワリークラフトマンの代表を務める村上氏は、華々しい経歴を持つ「アーティスト」だからである。
大学院修了後、京都を拠点に創作活動を行い、7年ぶりに母校での副手(教授のサポートをする助手のようなポジション)としての勤務を機に山形に戻った。現在は地元・長井市に拠点を置いた創作活動を続けながら、東北芸術大学で非常勤講師をしている。同じ大学の出身者で創作活動を継続しているアーティストたちとともに、デザイン・ワークショップ・アーティスト活動などさまざまなアプローチで地域に人と活力を呼び込む活動を行うグループ「アメフラシ」の運営にも携わっている。ちなみに2017年4月にオープンした道の駅「川のみなと長井」のロゴマークをデザインしたのも、村上氏である。

では、なぜそんな「アーティスト」である村上氏が、ビールづくりに取り組もうと思ったのか。それは一言で言うなら、村上氏の持つ地元・長井に対する深い「愛」に起因する。
「長井市は最上川の起点となる地であり、二つの一級河川が合流する地でもあります。つまり良質な水が豊富にあるということで、その水は全国的にも珍しい硬度18の超軟水です。ちなみにコンビニで売られている水も軟水ですが、その硬度は30前後と言われています。さらに長井の水には他に比べてカルシウムやマグネシウムの含有量が少なく、口当たりがとても滑らか。この水を活かした商品をつくって、長井の良さを発信したいと思ったのが、ビールづくりをやってみようと思ったきっかけでした」(村上)
山形県は、ビールの原材料の一つであるホップの産地としても有名である。その県内でも長井には野生のホップが自生する山があるほど、栽培に適した土地でもある。かつては多数存在していたホップ農家も現在では減少傾向にあるといい、村上氏は「ホップ栽培の再生で長井市を盛り上げたい」と考えたことも、ビールづくりに取り組むきっかけになったという。

簡単に「ビールをつくる」とは言っても、酒類製造免許を取得しなければ、違法になってしまう。免許の取得にあたっては、酒税法に基づいて製造予定の種類の品目別・製造所別に、製造所所在地の所轄税務署へ申請書を提出する必要がある。申請書の提出後、税務署による審査が行われるのだが、許可を得るための基準の一つとして、「製造設備の状況」という項目がある。発泡酒を製造する場合、免許を受けた後の1年間の製造見込量が6キロリットルを超えないと、製造許可が下りない。つまりは免許の申請時に、すでにそれだけの設備を用意しておかなければならない。村上氏は設備投資に必要な資金を、どう集めたのか。
「一緒にビール会社を立ち上げた仲間たちとの出資金を軸に、行政の助成金制度を利用したり、銀行からの融資を受けたりしながら、同時にクラウドファンディングも実施しました。目標金額は50万円に設定したのですが、ありがたいことに75名の支援者の方々から200万円近くをご支援いただくことができました」(村上)
十分な資金を確保できた村上氏は、申請時に必要な設備を揃えることができたのである。

2018年8月現在、長井ブルワリークラフトマンでは、長井市の水とホップを使った、長井市ならではのクラフトビールづくりに向けた準備が進行中だ。醸造プラントメーカーのエンジニアの来日が遅れるという事態にも見舞われたが、同年秋には発売できそうである。3種類のフレーバーを発売予定だが、これも「長井市の地ビール」に相応しいラインナップである。
「『ひょう』『くきたち』『秘伝豆』の3種類を発売する予定です。中でも『ひょう』は、山形県置賜地方でよく食べられている野草で、テレビ番組でも『山形県民が食べる雑草』として紹介されて、全国区の地名度を獲得したもの。長井の人たちにとっては親しみのある食材ですが、一方で『それをビールのフレーバーに?』と思わせる食材でもあります。長井の人にもそうでない人にも、話題になるビールになったらいいな、と思っています」(村上)
大学院を出て京都から長井に戻った時、寂しくなった地元の街を目の当たりにし、「どうにかして活気を取り戻したい」と村上氏は決意したという。そんな深い「地元愛」の結晶とも言うべき長井のクラフトビールが陽の目を見るのは、もう間もなくだ。

村上滋郎

長井ブルワリークラフトマン
代表

東北芸術大学洋画コース卒業、京都市立芸術大学大学院修士課程修了。東北芸術工科大学非常勤講師を勤めながら、クリエイターグループ「アメフラシ」と「長井ブルワリークラフトマン」の運営を行う。

アメフラシ