ながいではたらく

農業を目指す人。老舗の会社を守る人。行政で働く人。ITを駆使する人。起業する人。長井で働く人たちには、いろんな人がいます。そしてそれぞれ、輝いています。

トマト嫌いが、トマト農家で働いて克服できた。
自作の食材を使った飲食店を出す夢があるから。

寺嶋氏が就農の道に進むまでのプロセスは、なかなかの波乱万丈である。大手アパレルショップにはアルバイトで入社したが、準社員まで昇格し、「正社員にならないか」とまで声をかけられた。働いていたのは地元・埼玉県内の店舗だが、都心部の来客者数が多い好業績の店舗に匹敵する業績を叩き出していた。接客力が高く、寺嶋氏のシフトを確認されて出勤日にわざわざ来店するというお客様も少なくなかったという。しかしながら連日の激務のため、体を壊してしまって退職せざるを得なかったそうだ。
「休日が年に数日しかない、というぐらいの激務だったんですが、接客するのは好きで、苦ではありませんでした。だけど体がついていかないのではどうしようもないし、その会社では先輩たちを見ていてもアルバイトから正社員になった人が輝かしい出世をしているかというとそうでもなかった。だから退職することには、迷いはなかったですね」(寺嶋)

それからしばらくは、貯金で生活ができていたという。しかしながら、貯金だけでずっと生活していけるはずもなく、だんだんと生活資金が尽きてきた。「公務員を目指してみれば?」という友人の勧めに応じて勉強してみたり、人から話を聞いてみたりもしたが、どう考えても自分には合っていないとしか思えない。試行錯誤の結果、「やりたいことをやろう」という結論に至った、という。
「自分はやっぱり接客が好き。以前から飲食店の経営に興味がありましたが、単なる飲食店を出すというだけでは面白くない。自分でつくったり、獲ったりした食材でメニューを構成するお店ができたら面白いだろうな、と思ったのが農業を志向したきっかけでした」(寺嶋)
さまざまな自治体が主宰する就農希望者向けのセミナーに、足しげく通った。しかしながら、セミナーで語られる内容はほとんどが「きれいごと」のように感じた。資料ばかりが自宅に溜まっていく中で、「農業体験をすぐさせてもらえるところにしよう」と心に決めて、再度セミナーに参加した。そこで出会ったのが長井市だった、という。

「すぐ」とは言っても、受け入れ先の農家の都合もあるからと、一週間ほど待つこととなった。期日通りに連絡が来て、2泊3日の農業体験に参加できたのが、2017年3月。それを受け、翌月の2017年4月には長井市へ転居。新規就農者としての生活がスタートした。
「初めて長井に来た時は、いろいろと衝撃でした。フラワー長井線に初めて乗ったときは、『バスじゃないの?』と心の中でツッコミを入れていましたし(笑)。でも『農業に取り組むなら田舎がいい』とも考えていましたから、これはこれでありだな、と」(寺嶋)
受け入れ先となったのは、トマト農家だった。トマトの中でも、ミニトマトと呼ばれる種類の栽培と出荷を中心に行っている農家さんである。ちなみに寺嶋氏はトマト農家で働くようになるまで、「トマトは苦手だった」のだそうだ。
「プチッとなる食感と青臭さが、どうにも好きではなくて(苦笑)。だけど食味もしないといけないし、『苦手だ』とか言っていられない。今では味の違いもわかるようになったし、トマトを使った料理を毎日つくって食べられるようにもなりました。人間、克服しようと思えば何だってできる、と思いましたね(笑)」(寺嶋)

受け入れ先の農家で受けられる研修は、MAXで2年だそうだ。その間に技術的なスキルを身につけながら、農家として独立できる環境づくりも進めていくことになる。
「『早く独立したい』という気持ちはありますが、あくまで自分でつくった食材でメニューを構成する飲食店を出店することが目標であり、農家としての独立が最終目的ではないので、慌てて独立しようとは考えていません。実際、独立した先輩たちの中には5年以内で諦める人も少なくない。お世話になっているトマト農家さんはしっかり儲かっているので、それと同じことができるくらいのスキルを身につけることが先決だと思っています」(寺嶋)
飲食店を出店する場所としては、長井ももちろん考えているが、地元・埼玉もありだ、と考えている。民宿にして、農業体験ができるようにして、家族連れを呼び込もう、などと夢は膨らむ。「一度きりの人生、自分が楽しいと思う道を選んで進んだ方がいいと思う」と、寺嶋氏は言う。そう考えれば、トマト嫌いなど簡単に克服できるものなのかもしれない。

寺嶋 崇

高校卒業後、大手アパレルショップで勤務。「接客業が好き」だからと将来的に自身で経営する飲食店の開業を目指し、自分で栽培した食材を使ったお店にしようと農業を志す。